シグナルプレス|メールマガジン
配信日:
2026.5.13
Vol.
4
娘の宿題でデザインは良くなる

娘からの難題
中学生の娘に、今日の宿題について尋ねると、因数分解の問題が食卓に置かれました。
問題16ax + 9ay を因数分解しなさい。
「えーっと・・・・・・」
バレないようにスマホで調べ、かろうじて解答しました。
私を含め多くの方にとって、
それは「x, y, a, b などを使う数式」ぐらいの記憶じゃないでしょうか。
しかし振り返ってみると、実はデザインやブランディング、ひいてはビジネス全体においても、この「因数分解」を活用することができます。
今回は、かつて教室で解いていたあの数式が、なぜ今のビジネスに必要なのか。
具体的な事例とともに、その『スッキリする答え』を紐解いていきたいと思います。

実例の紹介
まずは下記の数式をご覧ください。
1a+2a+3a+4a+5a
↓
a(1+2+3+4+5)
これは「全部に a がつくのなら先に数字だけを足して、後から a を掛けたらいいじゃない」という因数分解の数式です。
バラバラな要素の中から共通因数(a)を見つけ出し、全体をシンプルに見通すことができます。
しかし、私たちクリエイティブの現場では意図せず、この因数分解とは真逆のことが起きる場合があります。

ナイキみたいにお願いします
例えば、初回ミーティングでデザインの雰囲気について、ご要望を伺ったところクライアント様から
「ナイキみたいに、カッコいい感じのデザインで」
といった、ご要望をいただくことがあります。
ナイキの広告デザインを紐解くと、そのほとんどがメインビジュアルとロゴマークをベースに、補足としてキャンペーンのタイトルやURLが、必要最小限で入っているだけ。
まさに「究極の因数分解」がなされたデザインです。
それを目指して、いざ制作を始めてみると…
「あれも入れ たい、これも重要」
「この文字はもっと派手に目立たせて」
「可愛いイラストも追加して」
「もっと高品質をアピールして」
「割引率をもっと大きく」
気づけば 紙面は文字や図形で埋め尽くされ、どこにでもある「何かうるさい広告」になってしまいます。
ナイキの社内には『11 Maxims(11の格言)』と呼ばれる行動指針が、存在すると言われています。
その一つに掲げられているのが『Simplify and Go(簡素化して進め) 』という言葉です。
世界最高のクリエイティブを誇る彼らですら、「意識しなければ、物事は複雑化していく」ことを知っています。
だからこそ、強制的に「簡素化」をルールに定めているのです。

「無いより有るほうが良い」の罠
情報発信において「簡素化」は極めて重要なプロセスであり、今回のテーマである「因数分解」はその基礎となる思考法です。
皆さんの中には
「情報量を削るなんて、せっかくのセールスチャンスを逃すんじゃ」
「なんでも無いよりは、有った方がいいでしょう」
そう思われる方もいるかもしれません。
しかし、ここで知っておいていただきたいのが、人が情報に触れるスピードです。
人が歩く速さは、
秒速 約1.2メートルです。
例えば、3メートル幅の巨大看板を通り過ぎるのに、3秒もかかりません。
看板に限らず、スマホのスクロール、郵便受けに投函されたチラシなど、情報が表示されるのは、極めて短い時間に限られています。
ですので、メッセージを的確に伝えるには「無いよりは、有った方がいい」という足し算思考よりも、「ノイズを削ぎ落とし、本質を際立たせる」という簡素化マインドが必要不可欠なのです。
そして、少し注意していただきたいのが、シンプルにすることは「引き算」ではない、ということです。
重複している情報を整理し、表現を最適化する。
それは伝えたいメッセージを無くすことではなく、むしろバラバラになっていた要素から「共通因数」を抽出し、最も純度の高い状態で届けるための、磨き上げ作業なのです。

幼き日の学びに目をむける
昨今、AIの発達により「学校で身につけた知識は、そんなに役に立たない」という意見も多く見られます。
しかし、今回のように学んで得た考え方や視点は、私たちの人生を確実に助けてくれます。
もし、かつて使っていた学校の教科書をめくる機会があれば、ぜひ興味を持って読んでみてください。
そこには、今の過酷な情報社会を生き抜くための、一生モノの知恵が詰まっています。
そして、改めて「学び」の大切さを、感じることができるのではないでしょうか。